戦争の周辺 と 十二支

戦争の周辺、忍者、十二支にまつわる雑学をぽちぽち入れています。

第二次世界大戦の歴史通史として、大変有用な3冊です。

アントニー・ビーヴァー『第二次世界大戦1939-45(上・中・下)白水社 1995

 

<第二次世界大戦の歴史通史として、大変有用な3冊です。>

 

第二次世界大戦に関わる書籍は、その多くが

「個別作戦についての経過」

「事実の解釈をめぐる政治的主張」

「一部戦域が省略されている」

「教科書的略史」

「個別兵士・市民視点の経験談」

というものです。

通史としてこれまで知られているのは、リデル・ハート「第二次世界大戦」ですが、極めて専門的で、軍事に詳しい方には良い本ですが一般に膾炙されるような理解しやすさ、面白さはありませんし、やはり「一部地域が省略されて」います。

 

本書は、アジア・太平洋地域(極東地域)における1930年代の日本の政治的動向について調査の不足が感じられ、誤訳も少しありますが、西欧・東欧の戦域に関しては丁寧に記述されています。

また、ソ連崩壊後の情報に基づく「第二次世界大戦」の通史としては現在唯一といえます。

特に、イタリアと関わってのアフリカ・バルカン半島の叙述、フィンランド・ソ連の戦争やノルウェーの戦争の叙述、地中海・シチリア・ヨーロッパ反攻をめぐる米英ソの駆け引きの叙述など、あまり言及されることの無い部分も丁寧です。

 

著者は、個別国家の政治判断や指導部の苦悩や決断が世界中に影響していく姿という大局、軍人の戦略・作戦規模の判断や行動という中規模局面の描写、個々の戦場での兵士や市民の動きや感情という身近なトピックを大変うまく執筆されることで有名ですので、3冊の大部でありながら飽きることなく読み進めることができます。

 

総じて、「第二次世界大戦」の全体像をより正確に理解しておきたい方には、一度通読されることをお薦めします。

2015

マンシュタイン元帥の人がわかる貴重な歴史証言記録

アレクサンダー シュタールベルク『回想の第三帝国〈上・下〉―反ヒトラー派将校の証言1932‐1945 (20世紀メモリアル) 平凡社 1995

<マンシュタイン元帥の人がわかる貴重な歴史証言記録>

著者は、ユダヤ系のドイツ貴族の系譜としてドイツ国防軍に属し、マンシュタイン元帥の伝令将校を経て副官を務めています。本書は著者がドイツ国防軍に志願してから終戦にいたるまでの回想録です。

上巻は、主に著者の成育環境や交友関係を通じて、思想の形成背景が述べられています。

本著作の白眉は、下巻にあります。

フォン・マンシュタイン元帥の伝令将校として常に傍らにいたがゆえに、様々な戦況判断時、またトレスコウやシュタウフェンベルクなどの反ヒトラー派将校からの接触などに対してマンシュタインがどのように対応したのかが詳しく述べられます。

 

マンシュタインは著者(シュタールベルグ中尉)に対して「自分が見聞きすることは常に見聞きし、自分の知らないことでも知っておくべきことは常に報告せよ」という主旨を伝えて常に傍らに配置します。

そのため、マンシュタインを反ヒトラー派の旗頭にともくろむ国防軍将官が、前線司令部にたびたび訪れ、マンシュタインと交渉する様を著者は常に見聞きする立場にありました。

反ヒトラー派の将官は、直接的な表現はしないのですがマンシュタインをトップに置くことを望み、クルーゲやロンメルなどは「自分は貴官の指揮下に入る用意がある」と述べます。

しかし、マンシュタインは「軍人は政治に意見しない」という主旨の姿勢を崩さず、反ヒトラー派には組しません。もっとも、著者はマンシュタインの日日の会話から、ヒトラーに対する嫌悪の情を持つことを喝破しています。

 

マンシュタインも、著者もユダヤ人の家系に属するが故、ウクライナを中心とする占領地でのユダヤ人に対する虐殺については敏感でした。マンシュタインは当初「信じられない」との姿勢を示しますが、著者を含む様々な情報源から、事実を認識するに至ります。

 

総じて、マンシュタインを傍らから見続けた貴重な証言記録となっていて、その歴史的価値は高いです。ドイツ本国ではマンシュタインの子孫からの訴状があるなど真贋を問うことがありましたが、現在は歴史事実として確定しているようです。(巻末にこの経過が収録されています)

 さらに、通読しますと著者を含めた国防軍将校(参謀本部将校)の中心がドイツ貴族で占められており、「特権階級」の強いプライドと偏見が垣間見える発言や思考がよくわかります。「ナチ・ヒトラー・武装SS」が「大衆の成り上がり集団」であり、「粗野で無教養」で「ドイツ国軍を担うに値しない人間ども」であるという強い偏見ですが、こうした点でも興味深い著作です。

2015

通史を知っている人が読むと、「視点」を変えた新たな通史が見える良書

ポール・ケネディ『第二次世界大戦影の主役: 勝利を実現した革新者たち』 日経BPマーケティング2013


9784532168865

 

<通史を知っている人が読むと、「視点」を変えた新たな通史が見える良書>

 

本書は、「初めて」第二次世界大戦の通史を学ぼうとする方には向きません。

 

すでに通史(軍事・作戦の流れ、国家指導部の戦略の推移、各戦場での指揮官や兵士の作戦・戦術の経過)を知っている方にとっては、今まであまり着目されてこなかった兵站部(技術・輸送・行政などの部門)に視点を置いて叙述された通史になり、大変「面白い」有用な書籍です。

 

19421943を転換期とした上で、5つの章で記述されている本書から、北海・大西洋を中心とする補給船団とUボートの戦いを例として「面白い」部分を。

 

北海・大西洋での補給船団とUボートの戦いは、一般通史では主として「技術開発」と「作戦」で語られますが、本書では「技術開発」にいたる歴史的必然性とそれに携わった要員の試行錯誤に視点が置かれます。

 

輸送の命題は「より多くの補給を可能にする」こと。

 

結論は「航空機による護衛での大船団」なのですが、この結論を実現するために

「ヘッジホッグ」

「初期ソナー」

「リバティ型輸送船の大量建造」

「護衛空母の大量建造」

「長距離哨戒機・長距離戦闘機・攻撃機の開発」

「音響魚雷の開発」

「無線傍受・解読技術」

などなどの個々の技術開発と運用方法と連合国間の相互協力が必要であったこと、そしてそれに力をそそぐ各級中間組織の取り組みが描かれます。

 

一方、Uボート側の命題は、「より多くの補給を不可能にすること」

でしたが、上述の連合軍側の対応の進展に呼応して

「1艦単位で広範囲の海域で捕捉・撃沈」から

「輸送船団を集中的に複数のUボートで襲う」になり、

「予定進路にピケット艦を配置し、接触したら追尾。航空機支援の届かない海域で、複数のUボートで襲い、周辺海域のUボート群を呼んでさらに攻撃を強化する」を経て、

航空機攻撃が激化すると「シュノーケルを装備して常時潜航、夜間のみ浮上して攻撃」になり、

護衛空母が船団に常駐する(航空支援の届かない海域がなくなる)ようになると、多数のUボートが撃沈され、事実上Uボート攻撃が無効化するようになっていきます。

 

このような「結果」は、想像や予定調和ではなく、高速輸送船の単艦での突破失敗や雑戦闘艦による船団護衛の失敗や航路の選択の失敗、長距離爆撃機や戦闘機での哨戒限界などの試行錯誤、そしてウルフパック戦術による大量の輸送船喪失という大敗北を経験してから導かれたものでした。

 

他の章でも同じように、連合国の各級組織は「失敗から学んだ解決策」を蓄積し、「結果」を生んだことを詳細に記述しています。

 

文章は簡潔明瞭で、類書はありません。お勧めします。

2014

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